アメリカスカップ2003年情報 #2

==お金で買えないもの==










バイアダクトハーバー全体
バイアダクトハーバー全体





アメリカワンとプラダのコンパウンド
アメリカワンとプラダのコンパウンド。アメリカワンはすでにショアクルーが到着。「オラクル」として準備開始





マイク・ドロモンドとピート・エバンス
チームニュージーランドのマイク・ドロモンド(左)−デザインチームの中心 とピート・エバンス(右)−ウェザーチームの中心







チームニュージーランドのコンパウンド
チームニュージーランドのコンパウンドは静かな状態ながら、デザインの準備は着々と進んでいる







ロス・ブラックマン
チーム運営の柱になるロス・ブラックマン

オリンピック期間中に気合いを入れてレースレポートを送り続けたせいか、アメリカスカップ関係のニュースをアップデイトするのが暫くお休みになってしまいました。10月から…と思っていた矢先に次々とシンジケートからの発表がありましたが、まずは9月にインタビューしてきたチーム・ニュージーランドの様子からお知らせしましょう。

オペレーションマネージャーの復活
9月中旬にオークランドへ行き、チームニュージーランドのロス・ブラックマンに会いました。ブラックマンは88年にニュージーランドがKボートでデニス・コナーのカタマランに挑戦した時にはセイルロフト、そして92年、95年はオペレーションのビジネスサイドの責任者でした。今回はクーツを筆頭にチームメンバーが他のシンジケートに流出してバラバラになった後、残ってシンジケートヘッドとなったトム・シュナッケンバーグに呼び戻されたわけですが、シュナッケンバーグとブラックマンは80年代前半に二人揃ってアメリカからオークランドへ戻り、ニュージーランドでノースセイルを立ち上げた同志です。ブラックマンは2003年はチームニュージーランドのオペレーションヘッドです。

混乱の時
ブラックマンは今回チームニュージーランドの激動の時を、「Intrim Period(次期へ移る時)」と表現しました。アメリカスカップを防衛した後、2週間もしないうちにチームニュージーランドのクルー達は失業者になりました。意外に思うかもしれませんが、ニュージーランドの仕事のやり方はプロジェクトごとに人を雇う性質が強く、アメリカスカップというプロジェクトが終了したから、雇用も終わりという単純な構造です。セイラーにしてみれば、自分の生活を全てかけてやってきた国の経済を守るための戦いが、失業という形で終わったのだから何かこれはおかしいと、頭の中が混乱して、一体、どうなっているのかと動揺するものがありました。国中エキサイトしていたのに、ボーナスはビール数ケースで終わり?困惑しました。
Sir Peter Blake から引き継いでクーツ、バタワース、シュナッケンバーグが中心となって次の防衛の準備を始めることになったわけですが、それもうまく軌道に乗らず、結局、クーツは自分からプロジェクトを立ち上げる前に放り出す格好でスイスに引き抜かれていきました。そして、混乱しているセイラー達の中から新しいチャレンジで必要な人間もごっそりと引き連れていくことになり、同時に失業中のセイラーやデザイングループの面々は続々と他のシンジケートに流れていきました。

国民感情は?
この期間のニュージーランド国民の感情をブラックマンは、「最初は防衛できるかどうかの心配、できての安堵、クーツが抜けた時の怒り、そして次も防衛しなければならないという決心へと変化していった。」と見ていました。今は残ったメンバーに足りないタレントを補強し、新生チームニュージーランドの資金集めに力を注いでいます。
今回の混乱で学んだことは多く、セイラーに支払う給料はあげたし、次回は防衛前にその次の契約を更新する段取りも考えておくなど、ニュージーランド式ビジネスの方法を改めることにしました。オークランド市もニュージーランド国も、何とかしようとやっと腰をあげてくれたのも幸運でしょうか。最初の運営資金は国や市から助けてもらいました。

心配よりも前進するデザインチーム
デザインチームはシュナッケンバーグ、マイク・ドロモンドを中心に強力なメンバーが揃っています。同じ方法では更に新しいスピードを生むことは難しいわけで、古いメンバーが抜けたから補強しやすかったと考えました。補強するためには自分達の何が不足しているかという点を十分に考慮しています。
ドロモンドにデザインチームの流失に不安はないのか尋ねると、ボートは手元にあるし、今度のほうがユニークな発想があるかも…と笑っていました。隣で聞いていたピーター・エバンスは95年のニッポンチャレンジのタクティシャンでしたが、彼いわく、ウエザーチームのほうは人材が不足して不安だそうです。エバンスは本番ではウエザーチームの責任者ですが、ボブ・ライスの手作業的やり方からロジャー・バダムのハイテクシステムに乗り換えていくことも課題です。

1ドルも無駄に使わない
ブラックマンは次の防衛のために必要な資金のだいたいのめどをつけています。予算どおりに集まったとしても、1ドルの無駄銭も払えませんが、やらなければならないことをやるために必要なだけは集まるといいます。95年のチャレンジでは5ドル以上のものを購入するときにはシンジケートヘッドのサインが必要という厳しい管理がありましたが、今度も同じです。ニュージーランドという小さな国は経済大国のアメリカのようにスポンサーがたくさんいるわけではありません。夢のような契約が成り立つ場所ではないことを理解した上で、カップを防衛しなければないのです。アメリカ西海岸や北欧の億万長者達が豊富な資金を注ぎ込んでカップをとりにやってくる姿は前回の挑戦艇であり、豊富な資金をうらやましく思ったイタリアのプラダチャレンジが霞んで見えるほどですが、ブラックマンはどんなにお金をかけたとしても、絶対に買えないものがあるといいます。それは80人というチームメンバーが長期にわたって活動するチームワークであり、カップまでの限られた時間、そしてオークランドでのレース経験、世界1速いボート2隻。クーツや他のメンバーが離れることによって、残されたメンバーが作っていくチームワークは前回よりも強いものがあります。
そういうブラックマンはチーム1の情熱マンであり、チームニュージーランドのプライドを大切にしています。どんなに他のシンジケートがお金をかけて挑戦してきたとしても、カップを防衛する意欲は誰にも負けません(万が一クーツが挑戦艇になったら、ニュージーランド中の人が生卵をもってバイアダクトハーバーに集まるかも)。世界中からドリームチームのように有名選手とデザイナーを集めたところで、寄せ集めのシンジケートではエゴがぶつかり難しいだろう。まして、時間は前回の半分くらいしかないわけですから。もっとも速い艇を2隻持っているチームニュージーランドですら、デザインチームはすでにフル回転です。

チームニュージーランドは10月から始まったタンクテストの後、11月中にテストの準備が始まり、12月からセーリングになります。クリスマスで短い休暇をはさみ、セーリングは1月から4月まで続きます。

次回のカップはカップ本戦が一番おもしろくなりそうです。アメリカスカップはお金で買えないから、億万長者達がこぞって挑戦してくるのではないか。そして、もしもチームニュージーランドがそれを防衛できたら、これは本当にお金で買えないことを証明することになるのでしょうか。

(11月6日発信)

文・斉藤愛子

※本WEBページ掲載内容の無断転載を禁じます。

ホームページへ  コンテンツへ  インデックスへ