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デザイナー達の心躍る日

ルイヴィトンカップ

1月7日はルイヴィトンカップの決勝に残った2チームとチームニュージーランドの艇の公開がありました。6日までに申請した計測済みの艇を7日に公開し、それから決勝レースが終わるまで改造をしてはならないというルールがあり、それに従い、3シンジケートが9時アリンギ、11時オラクル、12時半チームニュージーランドという順序でメディアと一般に公開しました。ここまで勝ち残った艇のデザインチームが脚光を浴び、大会の華となる日で、ワクワクしながら各艇を見つめました。 アリンギが使うSUI−64は2001年11月に進水しています。新しいジェネレーションの艇の中では最初に走りだした艇ですが、それから2回の改造を行い現在に至ります。アリンギではACボートもワンデザイン同様、チューニングやセッティングを変更するだけでもかなりのスピード差がでると考え、ストレートラインだけのスピードではなく、マッチレースで使う動きを考えた上で、細かいことまでこだわりをもってテストと改良をしてきました。ハルは細めのU字型ですが、コンピューター上で研究したかなりの数のモデルを16にしぼり、カナダのセント・ジェームズでタンクテストを行い、U字型の64と排水型の75を建造しました。キール、キールバルブは2000年スタイルを基本に考え、ウイングレットの位置、大きさ、ふり角度などの微調整にこだわりました。他のシンジケートと違うのはフォアデッキ上にくぼみをつけて、スピンポールがそこへ収まり、デッキ上の抵抗を減らしたことでしょうか。また、セールプログラムにも時間をかけました。メンセールのピークが平らな(ウインドサーフィンやトルネード級のセールのように)フラットトップのメンセールはあっという間に他のシンジケートにも真似されたし、ジェノアとジャンパーストラットのオーバーラップする部分はスプレダーの形を工夫してシートを引き込んでジェノアがスプレッダーに触れると、スプレダーにあたる部分を利用してセールを押し、リーチを開かせるという工夫も、更に進歩しています。 アリンギは総合力がありますし、緻密で正確なテストはスイスらしいかもしれません。しかし、結局は2000年に完成されたものをつきつめていく手法にとどまり、脅威を感じるような新しいものは見当たりませんでした。ボートがもつポテンシャルを100%引き出し、オークランドの海と風を研究しつくしたクーツ、バタワースに加えて、3Dで風を把握するウエザーシステムを導入した点でアリンギはここまで勝ち進んできたのではないかというのが私の感想です。極めてレース上手なのです。

オラクルはというと、ハルは水線幅がアリンギやチームニュージーランドと比べて少し細いかもしれません。ブルース・ファーが開発の中心ですが、ヘルムスマンのピーター・ホルムベルグが力でねじふせて操るような印象があり、果たしてバランスの良い仕上がりなのかが気になります。ファーはアリンギと同じように、今回使うUSA76を詳細にわたって改良してきています。どの形のキールが良いとか、バルブはこれが一番だとかそういった考えではなく、組合わせによってスピードは向上するとしています。確かに、抵抗だけを考えれば絶対にこれが良いシェイプというのはでてくると思いますが、バランスが勝負のヨットデザインですから、それぞれの長所、短所を把握した上で、相乗効果をあげる組合わせを見つけることにファーは力をいれています。しかしながら、オラクルからも脅威を感じる何かは見えませんでした。

最後に登場したチームニュージーランドの艇公開には拍手と歓声が上がりました。12月中頃から、「チームニュージーランドの艇は2重底になっている」とか、「キーウィー・クリップ・オン」とか噂が広まり、どうやらブラックマジックのハルにはボートスピードをあげるための特殊なアペンデージがとりつけられているという情報が流れました。アリンギやオラクルがアペンデージを隠した覆いを落とすことによってキールを公開したのに対して、チームニュージーランドはあらかじめ水面係留しておいた2隻をリフトで持ち上げることにより、水から出てくる水面下の秘密を披露し、実にドラマチックな演出でした。遠目に見ると、普通のハルに見え、何だ噂はただの噂じゃないかと思えるほどですが、近くに寄ってくると、ハルのサイドに塗装されたシルバーファーンの後ろ端の少し前あたりからキールの取り付けの1メートルくらい後方までの間に「この線からハルは切り取れます」というような細い隙間があり、それが「クリップ・オン」の正体でした。隙間は細いところでは2−3ミリかもしれませんが、だいたい10ミリ近いのではないかと思います。写真に入れた線の部分がぱかっとはずれてとれるように想像してください。アペンデージのきまりとして、接合部分以外はハルに触れてはならないことと、取り付けはハルの中心線に対して500ミリ以内で(バウに近い場所では200ミリというところもありますが)接合すること、可動のものは2つだけ(たいていラダーとトリムタブ)というのがあります。チームニュージーランドは計測員にチェックをしてもらって、現在のシステムが合法であることを確認し、導入に持ち込みました。公開した2艇の両艇についていますから、テストの結果、ボートは確実に2000年モデルよりも速いことが推測できます。

このシステムは「Hull Apendage (ハル・アペンデージ)」を短縮して「Hula(フラ)」と命名されています。チームニュージーランドのデザインチームはこの発明にかなりの自信とプライドを持っているらしく、公開の際にはフラダンスのハワイを意図して、デザインチームのユニフォームであるアロハシャツで登場しました。 開発の中心にいるクレイ・オリバーは、「フラ開発はチームニュージーランド2003の新艇開発計画の最初からプログラムにありました。バウの形を工夫して水線長を延ばすことを考えた2000年モデルよりも更に水線長を延ばすためにエレガントで理想のハルシェイプを考えてみましたが、ACボートのルールによりホロー(内側へのくぼみ)をつけてはならないスターンエリアをどうやって理想のシェイプに近づけるかと工夫した結果がフラです。自分達が費やした開発時間とテスト時間の膨大さを考えれば、アリンギやオラクルがコピーしてきたとしても間に合わないだろうと思います。」しかし、デザインチームの中心にいるマイク・ドロモンドは「アリンギやオラクルのデザインスタッフやショアチーム、ビルダーなら短期間でアイデアをコピーすることは可能だと思う。実際、アリンギもオラクルも今回使わない2隻目にはすでにフラのテストピースがついていて、本番までには使用艇にも使うのではないかという噂を聞いている。敵はあなどれない。」と、警戒しているのか、敵をあおっているのかわからない言い方をしています。 フラがついて水線長が長くなり、ボリュームが増えることは、アップウィンドでのスピードアップを可能にするでしょう。しかし、ハルに取り付けるアペンデージは数が多ければ抵抗になるだろうし、複雑なシステムで壊れることもあります。ドロモンドは「トレイド・オフ」という言葉をよく使いますが、ブラックマジックの2隻には長さと形の違うキール、バルブが取り付けてありました。ひとつは船台からはみ出すほど前後に長く、平たいものでした。ウイングレットは中心近くのバルブの底部分に近いところについています。平たいバルブは重心がさがり、復元する力が増すことになると思いますが、長くなると当然抵抗も大きくなります。トレイド・オフという意味は「何かで効果を得るために、何かを犠牲にしなければならない」ということですが、チームニュージーランドも全ての詳細をジグソーパズルのように1つ1つのピースを組合わせることで1枚の絵を描くように考えています。従って、そのピースだけをコピーしてもだめなこともテストで経験してきました。 チームニュージーランドが他にもやっているピースとして、マストとブームがあります。マストは画期的に注目を浴びたミレニアムリグ(3本スプレッダー)をやめて、古いタイプの4本スプレダーに戻りました。ドロムンドは「マストトップを堅くしたかったから。」とあっさり答えます。また、ブームも軽くて強いものを作るために、そこらへんから拾い集めたような材料で軽量化に熱心です。2003年のルイヴィトンカップが始まった時にACクラスもいよいよルール上での数値あわせのためにボートを改造するようになったのではないかとオークランドでカップを観戦しているジャーナリスト軍団と話たことがありますが、そう考えると、チームニュージーランドが目指しているところは、アップウィンドで速いボートをダウンウィンドはジェネカーを改良してカバーする、フラを使って水線長を伸ばすとしたら、ルール上はハルの数値が減る分をセールエリアを拡大できるかもしれない、その場合、マストを堅める必要があり、ブームを軽くする必要がある。また、セールエリアが増えたとしたら、スタビリティーを良くするために、キールに工夫が必要。重心を下げることを工夫する。これが私が描いたチームニュージーランドのジグソーパズルの絵です。フラは抵抗にもなりますから、セールエリアが増えたらエンジンの馬力が増すのといっしょでカバーできるかもしれない。開発の人達だったら何%得して、何%損するかなんて計算してしまうのかもしれませんが、崩壊したチームニュージーランドを建て直して、ここまでに仕上げてきたシンジケートヘッドのトム・シュナケンバーグはアロハシャツと赤い靴下で、自信に満ちた顔をしていました。他のシンジケートの艇を先に見る場面ではキールが見えるまでは神妙な顔をしていましたが、公開された2隻を見た後はすたすたとベースキャンプに戻る姿もあり、みた時点で余裕ができたことは明らかでした。チームニュージーランドはカップ本戦まで登場しませんから、2月11日の本戦キール公開の時に彼らが何をつけてくるか、81か82か、どちらを選ぶかが答えになるでしょう。今回2艇を公開していますが、これはチームニュージーランドが最終調整のテストに入った印象を受けました。机の上に割ったたまごをたてたコロンブスの話を思い出します。 チャレンジャーのほうといえば、アリンギもオラクルもフラに翻弄されているかもしれませんが、キーワードはトレイド・オフとパッケージではないかと思います。それとも、アリンギが抗議して、チームニュージーランドのジグソーパズルをひっくり返すような手段に出ることもあるのでしょうか。現在アリンギからコンフィデンシャルでアペンデージに関してルールの問い合わせがありますが、コンフィデンシャルということは、チームニュージーランドに抗議するか、自分のところでも建造するというどちらかになります。勝負は水の上にお願いしたいものです。ミレニアムリグの次はフラ。しかし、その前にルイヴィトンカップファイナルが11日から始まります。オークランドでは過激派がアリンギに脅迫状を送ったり、物騒な噂があります。また、ニュージーランドでは「ロイヤル(Loyal)」という一人一人が手をつなぎあって国を守るというようなニュアンスでのキャンペーンが始まっています。故・ピーター・ブレイクが95年に赤い靴下を履いて頑張った時には「赤い靴下」キャンペーンでしたが、ニュージーランドの国民はカップがニュージーランドに残ることを祈るように見守っています。ルイヴィトンファイナルはたぶんアリンギがストレートに勝つと考えられていますが、国民的感情は過激派を刺激しないことも考えて、ここはオラクルに勝っていただき、チームニュージーランドと平和なカップ争奪戦を繰り広げてほしいといったところでしょうか。とにかく、レースは11日に始まります。初戦を見たら、だいたいの結果がわかるでしょう。


これがフラです。線から切りってはずしてみてください。


横から見ると、ハルの結構大きな部分にフラがついて、元からの船型をイメージ していることがわかります。


チームニュージーランドの頭脳3名。左からクレイ・オリバー、トム・シュナケ ンバーグ、マイク・ドロムンド。


チャレンジャーの中では総合力にたけているアリンギ。スイスながらも実は ニュージーランドから適しされるクーツのチーム。


細身のオラクルを下から眺めてみました。スターンがフィン級を思わせるあた り、ホルムバーグとカトラーの好みなんでしょうか。


ロイヤルキャンペーンとブラックハートキャンペーンがありますが、誤解のない ように。ブラックハートは過激派です。ロイヤルは手をつないでチームニュージーラ ンドを応援する応援歌CMがテレビで流れています。


大会全体のサイトは成績が載るページの確認ができてからお知らせします。

このレポートは下記のサイトに写真とともに掲載する予定です。

文・写真:斉藤愛子

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