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デザイナー達の心躍る日-パート2

アメリカスカップレポート

2月11日にアメリカスカップ本戦にむけて艇の公開がありました。ルイヴィトンカップの決勝と同じハルを使わなければならないアリンギと、前回2艇を公開した中から1艇を選ぶチームニュージーランドでしたが、すでに見た艇がどう改良されているのか、アリンギに「フラ」がついてくるのかに注目が集まりました。

簡単に整理すると、アリンギはバウの形をレーティングを変える目的で改良し、セールエリアを増やしてきました。また、リギンをダブルにして空気抵抗を減らすようにしています。ダブルリギンはプラダやチームニュージーランドが昨年夏くらいから使っていたようですが、僅かなものでも積み上げれば大きなスピードアップにつながるというものです。リギンは1セットで1千万円近くするものですし、取り付け金具なども特注品になります。これでもかというほどの徹底ぶりがなければ今さら変更してくるわけがありませんから、アリンギの気合が伺えます。アリンギは今回もSUI−64で走ります。

チームニュージーランドはNZL-82に長いキールバルブと細いストラットのほうを選びました。また、マストにはダブルリギンがついており、4本スプレッダーの上に更に1つ小さなスプレッダーを増やしています(この理由は調査中です)。フラはもちろんついています。こんなに抵抗が大きいものばかりで大丈夫なのか、軽風では超遅いのではないかという評判ですが、フラの隙間には水が入りますから、ボートを最初に水におろした時には中に入っている空気がボコボコと外にでてき、中に水が入っていきます。そうすると、一度中に入った水はそうすぐに流れて外にでることはなく、実際には中味がつまったような状態で、たいした抵抗にはならないそうです。チームニュージーランドのデザインスタッフいわく、「そんなことくらい誰だって考えることだし、実験して、テストして、いい結果だったから使ったのに決まっているではないか・・・」聞いた私が馬鹿でしたという答えが戻ってきました。また、キールバルブについては、「確かに抵抗は大きくなるけれど、その分得することがあるから大きくしたわけで、重心を低くする理由をよく考えてごらんなさい。」うまくかわされてしまいました。何故、彼らがここまで重心をさげることにこだわるのか。そして、この形でも私達が想像するよりも抵抗は少ないといいます。次から次へと新しいことを考えていくチームニュージーランドですが、まだ何か見せてくれそうで明日からのレースが楽しみです。スタートマニューバリングの激しさが特に楽しみです。

どちらもアップウィンドを重視していて、最初のマークを先行し、ダウンウィンドはそこそこの速さでついていかれればよいと考えているようです。同じタイプが揃ったのは、アメリカスカップの勝ち方を熟知したチームニュージーランド(95年と2000年)から枝分かれしたセーラー達がアリンギに移ったからでしょう。アリンギは2000年にチームニュージーランド艇をベースに考えて、それを徹底研究分析したところから今回の艇を建造していますから、確かにNZL-60よりも性能で上のものができています。また、クーツやバタワースは前回の間に今回のNZL82の船型が速いというアイデアをチームニュージーランド内で話していた時にはまだチームニュージーランドのメンバーでしたから、アイデアがあることはわかっていました。しかし、実物を見るまでは半信半疑だったことも事実です。

フラは後から取り付けたものではなく、最初からフラを取り付けた形でハルをデザインし、ルールで決められているスターンのくぼみがあってはいけない部分をまっすぐにして元になるハルを作り、後からアペンデージとしてフラでハルの形をとりつけて完璧な形にしていると考えます。従って、今あるハルにフラだけ取り付けても速いとは考えられません。チームニュージーランドはそれをわかっていましたから、ルイヴィトンカップが終わりに近づいた時に念を押すように「チャンレンジャーはルイヴィトンカップ決勝で使った艇をアメリカスカップでも使用する」というきまりを確認していました。クーツはフラの存在を知っていましたから、アリンギがフラを使うのであれば、一度も使っていなかった2号艇をルイヴィトンカップ決勝で出してくると予想していたのでしょう。しかし、アリンギはSUI64で最後まで戦うことを選び、フラはついていませんでした。ここまでの勝負は先手を打ったチームニュージーランドが上手だったようです。

アリンギには豊富な資金を使って、初チャレンジにして、2000年勝者であるチームニュージーランドのノウハウを買い取ることができたことがここまでの勝因だと思います。デザインチームも現在までまだ雇用されているし、スイス色を出すための演出にも工夫をこらしています。クーツやバタワースを含む「経験」をも買うことができたのですから、チャレンジャーは資金の順にレース順位がついたというのも納得できます。オークランドの街中には牛をモチーフにした広告宣伝が現れ、スイスチャレンジはカウベルとアルプスホルンに代表されています。

チームニュージーランドは2000年の勝者であったチームが崩壊し、資金ぐりもめどがつかないまま、最悪のスタート状態でした。そこからディーン・バーカーがスキッパーとなり、若手中心に少しでも速い艇を作るために積み重ねてきました。シンジケートヘッドでもあり、デザインチームのリーダーであるトム・シュナケンバーグは「我々はアメリカスカップのデザインゲームを熟知している。」と自信を見せています。記者会見に現れたシュナッケンバーグは故・ピーター・ブレイクが愛用していた幸運の赤い靴下にちなんで、ロイヤルと入ったレッドソックスをはいていました。チームニュージーランドにいるオリンピックキャンペーンをしてきたセーラーに聞いたら、「オリンピックは個人競技だから凄いプレッシャーで、大会の本番では凄く緊張した。でも、アメリカスカップはチーム全員で戦うものだから、オリンピックと比べたら心強いし、顔が白くなるほど緊張しない。レースは喧嘩しにいくみたいなもんだから、団体の時は強気でしょ。」この話を聞いた時に、若いって、いいなと思いました。殴りこみに行く時に一人じゃなきゃ強いだろというこの発想が何ともニュージーランドらしいなと笑ってしまいました。スポンサーのオメガ大使を務めるシンディー・クロウフォードによると、スキッパーのディーン・バーカーは、「Very Charming Guy」だそうです。

いよいよ明日からレースが始まりますが、初日のエントリーはアリンギがスターボードエンド(イエロー)、チームニュージーランドがポートエンド(ブルー)入ります。レース委員長のハロルド・ベネットによると、「明日は南の風が15−18ノット、もっと強くなる可能性もあるが、定刻どおりスタート予定」ということです。カップ本戦は軽風でも強風でも何ノット以上、以下という制限はありません。レース委員長の判断で軽風では安定した風向でない場合はやらず、吹いても南西では波がないから強めの風でレースを行い、北東では波が悪いので多少弱めだとしても中止になることがあるといいます。融通がきくわけです。ルイヴィトンカップのように中止オンパレードにならないことを祈りましょう。

アリンギが予選では手を抜いていたという噂もあります。チームニュージーランドの自信は見せかけだけだという噂もあります。オークランドでは噂の華が咲き乱れ、街中でロイヤルの黒旗を見かけます。初戦の前が希望と不安のいりまじる最も複雑な時ですが、どちらが勝つのかという質問に、私は5−1でチームニュージーランドが防衛すると答えております。多くの人が勝つ理由を「フラ」としていますが、私は「Young Boys」と書かせていただきました。皆さんはどう予想されていますか?
(2月14日、オークランドにて)


チームニュージーランドのキール。火の玉デザインは95年から続いている 勝利の火の玉です。長さはアリンギの1.5倍くらいでしょうか。この大きなキール バルブが抵抗の塊ではないかと、本当にこれが速いの?という話題でオークランドは 盛り上がっています。


チームニュージーランドのマストには4本スプレッダーがありますが、その上 のジャンパーストラットとの間に小さなスプレッダーのような押さえ棒がついていま した。この棒の働きはいかに?


異常なくらいの自信に満ちたディーン・バーカーとトム・シュナケンバーグ。 挑戦者のクーツは何か影が薄くなったような印象です。それとも、三味線ひいている のでしょうか。


大会全体のサイトは成績が載るページの確認ができてからお知らせします。

このレポートは下記のサイトに写真とともに掲載する予定です。

文・写真:斉藤愛子

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