ウエザー革命

「風は何色?」

 チームニュージーランドが1995年にサンディエゴからカップをオークランドへ持ち込んだ時、彼らがボブ・ライスを中心に構築したウエザーシステムに驚かされました。レース海面に気象情報を測定する機器を取り付けたゴムボートを風上、両サイドに配置し、スタートライン付近にいる母船に情報を送り、母船でそのデーターを処理していました。潮は2メートルのポールを海に投げ入れ、GPSで測定した移動距離で流れの速さと方向を測定していました。マストの高さを想定して上空のグラディエント風を見るために風船を飛ばしてその方向をハンドコンパスで計るのですが、ゴムボートにビニール袋一杯の風船を積み込んでいたのを思い出します。

 前回は場所をオークランドへ移し、チャレンジャーの中でもっともプログラムが進んでいたのはプラダでしたが、ウエザーの人々は午前4時に事務所へ来て、7時半頃に行われるウエザーミーティングを目標に気象データーを集め、予報を出していました。95年からの進歩は使用する道具がよりコンピューター化されたこと、現場でのデーター通信が無線になったこと、海だけでなく、陸上にもプライベートステーションを設置したことなどありますが、より洗練されただけで、画期的な進歩というよりはメテオロジストの予報確立勝負という印象でした。

 21世紀になり、今回のチャレンジでは革命的な進歩が見られます。ラッセル・クーツ率いるスイスのアリンギ・チャレンジではウエザーチームの責任者がジョン・ビルジャーで、メテオロジスト(気象学の専門で気象予報を仕事にしている人)はジャック・カットフィー、他7名の合計9名の気象チームです。アリンギチームがチャレンジを決めてから、すでにオークランドの過去の気象データーを分析し、現場でのデーターを集めるシステムを作りました。レースのある日は午前6時半にベースキャンプに入り、コンピューターにリアルタイムで衛星写真や気圧、気温、海水温、レーダーの観測、降水分布など気象データーを取り込みます。そこから大まかな天気予報を出すのはジャックの仕事ですが、アメリカスカップの気象はレースを行う2時間にハウラキ湾の中のレース海面(直径3マイルのコース)で7ノットから19ノットの範囲での風がどう変化するかという極小さな点で気象予報が必要です。午前9時半には9名のメンバーがゴムボート6隻、母船(ジョンとジャック)、陸上とに分かれてレース海面に向かい、スタート時間の6分前までに、そのレースでどちらの海面が有利な風になるのか、セール選択のために風の強さがどう変化するか、レース中に強くなるのか、弱くなるのか・・・戦術を組み立てるために必要な情報を常にアップデイトしていきます。6隻のゴムボート、陸上からのデーター(海軍や固定ブイ、プライベートに設置したステーション)は1分間間隔の無線送信で母船に集まり、アリンギが独自に開発したモデルソフトに取り込まれます。このソフトには立体でハウラキ湾の地形がモデル化されており、データーが入るとモデルの中で風の予想をし、流れを示します。3次元で風の変化を示すプログラムがどこまで正確なのかは秘密ですが、これまでにシステムを構築する中で変更を加えてきたので、現在はほぼ完成されて、予想はかなりの確立で的中しているそうです。ジャックはアメリカスカップキャンペーンは初めてのメテオロジストですが、ジョン・ビルジャーはバルセロナ五輪の470ニュージーランド代表で、95年アメリカスカップではクリス/ディクソンのタグホイヤーチャレンジでナビゲーターを担当しました。航海計器には詳しいし、レースの時に必要な情報を把握できるので、メテオロジストの情報をより使いやすく加工することができます。

 6隻のゴムボートはただデーターを送るためのブイ的役割を果たしているかというと、そんなことはありません。そもそも、測定して得るデーターはすでに記録であり、次の風を予測してくれるわけではないのです。従って、変化の気配もわかりませんし、変幻自在に現れては消える雲についても、つかめるわけがないのです。ウエザーボートの担当者は実際にヨットレースで風を見れる力を持った人達で、彼らの観天望から得る情報はジョンとジャックが無線でやりとりします。

 レース艇が海上にでてくると、気象母船とレース艇に乗るヨハン・シューマンかマリー・ジョーンズがコミニケーション担当で、スタート前の練習中も頻繁に連絡をとりあって風を把握していきます。その時間にセール選択、レースコースの組み立て、レース中のセール交換準備などさまざまな準備を重ねていきます。スタート6分前までそれが続き、後はレース艇との連絡はできません。スタート後もデーター収集を続け、レースが終わった後、分析と反省をします。

 アリンギの特徴はコンピューターの立体モデルシステムですが、コンピューターの画面上で風に色がついて吹いているというのは、95年に大谷さんとNHKのアメリカスカップテレビ解説をした時に、「風に強弱と流れがわかるように色がついてテレビ画面を流れたら、ヨットレースの面白さを解説するのにわかりやすい」という話をした時から、ずっと夢に見ていたことでした。また、シドニー五輪の時も湾内であるレースの風を推測するために、コンピューター上に湾のモデルを作って風の流れを計算することができるのではないかと話題にあがりつつも、そこまでお金をかけられる国がなかったということもあります。始まったばかりのルイヴィトンカップで、モデルの画面は他のシンジケートのこともあって秘密なのですが、時がきたら、ぜひ、見せていただきたいものです。 参考までに他のシンジケートの気象担当者を紹介しておきましょう。殆ど全部のメンバーが午前4時にはシンジケートのベースキャンプに入るといいますから、従来からの手法にたよっていると推測しています。艇差が少なくなればスマートにレースをすることが絶対条件になりますから、ウエザーに気合が入っているグループが上位を狙うことは確実です。


アリンギ・チャレンジのジョン・ビルジャー(写真左)とジャック・カッツ フィー。アリンギは資金豊富なので、限りなくハイテックを導入しています。ビル ジャーは航海計器とコンピューターの専門の上、トップセーラーですからアリンギの バックアップ体制は強力です。






チームニュージーランドのウエザーボート
ブラックマジックはウエザーボートもブラック。測定計器用の支柱はテレスコピッ クになっていて海上で観測点に到着すると高く伸ばせるようになっています。伸ばす とアリンギの測定点の10メートルよりも高くなります。




オラクルのウエザーボートが海上で測定してます。アンテナが低いとACボートのマ ストトップよりも風速が弱くでます。大会は水面から10メートルの高さの風を基準 にします。



スターズ&ストライプスのウエザーボート軍団です。



ハウラキ湾には気象観測ブイが2個あります。1個はNIWAブイとよばれ、前回のアメ リカワンが設定したブイを今回のオラクルが買って、引き続きプライベートに使って いるもの。もう1個はAXYSブイと呼ばれ、チームニュージーランド、プラダ、ワン ワールド、アリンギ、スターズ&ストライプス、GBRチャレンジの6チームが共有し ています。手前のボートはワンワールドのチェイステンダーで、このボートのトップ フロアーにワンワールドウエザーチームが乗っています。中段に香取さんがいま す。




ルイヴィトンカップの成績や3Dのレースシーンを見るサイト(英語、仏語、伊語)は下記のとおりです。
「ルイヴィトンカップを見るサイト」
http://www.louisvuittoncup.yahoo.com
http://www.americascup.yahoo.com
ここへ接続し、 Results で成績を見てください。

文・写真:斉藤愛子

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